部局にいるだけでは 得られなかった刺激で成長

インタビュー 02 坂井 哲 教授 の場合
北海道大学 大学院理学研究院 数学部門

坂井 哲
教授SAKAI Akira

研究課題
  • 相転移・臨界現象の数学的に厳密な解析,特に臨界次元直上の対数補正の導出
  • 同時スピン更新に基づく基底状態の探索方法と精度評価の確立
採用年度 2008年度
労働市場が狭い数学者事情
海外から公募にチャレンジ

東京工業大学で理学博士を取得した後、2001年から7年間、カナダのBritish Columbia大学、オランダのEURANDOMとEindhoven工科大学、そして最後はイギリスのBath大学の4か所でポスドクや助教職を務めました。海外でキャリアを積んだ理由は、日本の数学研究者の労働市場が非常に狭く、そこで戦うことが得策とはとても思えなかったから。無論、海外も競争率は高いですが労働市場が圧倒的に広く、幸いにも自分が行きたいと思った先々でポストを見つけることができました。

北大テニュアトラック事業が公募を始めるという話は、同じ研究分野でお世話になった東北大学(2006年当時)の服部哲弥先生からうかがいました。イギリスからそろそろ帰国することも考えていましたし、当時の私は 36 歳。一般的な助教職を得るには年齢的に厳しいこともあり、教えていただいた本事業にトライする気持ちになりました。

二次審査の思い出は、プレゼンテーションのあとにエッセイを書く時間があり、書き上げる直前に貸していただいていたパソコンがクラッシュしたこと。職員の方が熱心に書き直しを勧めてくださって最後までやり終えることができました。二次審査に進んだ12人中、数学者の採用は私1人でした。

研究に没入できた北キャンパス
異分野研究者と共同研究も

私が在籍していた当時、テニュアトラックの実施拠点であった創成研究機構は札幌駅や部局からも遠く、研究にほどよく没入できる理想的な環境で、任期中に研究を大きく進展させることができました。同じ部屋をシェアしていたテニュアトラックメンバーの中には実験機材の関係もあり、ほぼ毎日部局に通っていた人もいたようです。もちろん過ごし方は人それぞれですが、私の場合はオランダ時代に始めた研究を一気に形にすることができました。

その一方でテニュアトラック教員同士の交流会も積極的に行われており、私も生物科学の千葉由佳子先生と共同研究を行いました。現在進んでいるCRESTの共同研究「学習/数理モデルに基づく時空間展開型アーキテクチャの創出と応用」(東京工業大学の本村真人先生が代表)も、部局だけに閉じこもっていたならば絶対にお声がかからなかったプロジェクトだと感じています。

ティーチングに関しては海外時代にすでに授業を持たされていたことと、数学という分野はつねに研究と教育の両輪で継続していくものだという自覚があったため、初めから抵抗感なく取り組めました。期間中、教育総長賞を二度いただいたこともいい思い出の一つになっています。

脱・内向きな専門家集団
受け皿となるプラットフォームを

海外にいたときはまさに「人間万事 塞翁が馬」の状態でしたが、北大のテニュアトラック採用期間はつねに安定した環境で、いいことばかりが思い出されます。そのなかであえて一つ申し上げるとすると、私たちの代のときのように半ば必然的に研究者同士が集まる部局横断的なプラットフォームづくりのために、旧総合型テニュアトラック制度をもう一度見直してみてもいいのではないか、と感じています。

現在の時局が求めている研究者像が内向きな超専門家集団ではなく、異分野同士が広くつながっている有機体のようなものだと考えると、その受け皿となるプラットフォームの必要性は極めて大きいと感じます。部局にいるだけでは得られない他者からの刺激や影響は研究者の成長に欠かせないもの。自分も若手を育てる立場になった今だからこそ、研究者の世界を広げてくれる空間づくりの必要性を実感しています。

2021年1月取材