山下 由衣
助教

採用年度
  • 2018年度
所属北海道大学大学院農学研究院・基盤研究部門・応用生命科学分野
留学先ドイツ、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(平成30年4月18日~平成30年6月18日、平成31年2月28日~平成31年4月1日)

生命現象を担う主要な役割を持つタンパク質は、全ての生物において遺伝子の発現によって合成されます。遺伝子発現過程では、最初にDNAに刻まれた遺伝情報が「転写」によってmRNAにうつしとられます。次に、mRNAの配列情報の解読とアミノ酸の重合を繰り返す「翻訳」によってタンパク質が合成されます。全ての生物における普遍的な翻訳装置は、「リボソーム」と呼ばれ、多数のタンパク質とRNAからなる巨大分子複合体です。近年、遺伝子発現の研究において、翻訳のレベルでの調節が注目を集めています。私は、高等植物を中心に、翻訳レベルでの新規遺伝子発現制御を発見し、その仕組みを解明することを目指しています。

私はこれまでは生化学や遺伝学的手法を用いた研究を行ってきました。本海外研修では、植物の翻訳装置であるリボソームを凍結電子顕微鏡解析技術によって可視化すること目的に、ドイツ・ミュンヘン大学のRoland Beckmann 教授の研究室に滞在させていただきました。凍結電子顕微鏡解析技術は、近年、電子を直接検出するカメラが開発されたことを端緒に、飛躍的に進歩し続けています。Beckmann教授は1990年代から、生物種を問わず、リボソームの凍結電子顕微鏡解析において、世界をリードする成果を上げています。Beckmann研究室はFEI社の凍結電子顕微鏡Titan Kriosを2台所有し、リボソームの可視化にのみ集中的に使用しているため、私の研究目的にとって最適の環境でした。

凍結電子顕微鏡画像の単粒子解析によって、植物のリボソームにおける翻訳阻害の様子を再構築し、可視化することができました。リボソームの活性中心に翻訳阻害の原因が見つかり、これまでの生化学的解析とも整合性がとれていたため、感動しました。また、リボソーム上で起こる新生鎖の品質管理機構の研究にも参加させていただき、新たな因子を発見することができました。全体を通して、可視化しなければ明らかにならなかったことがたくさんあり、本研究に限らず、生物学において(規模を問わず)構造を可視化することの力強さを改めて実感しました。現在は両成果の論文化の準備を進めている段階です。研究以外では、ミュンヘン大学の生化学専攻において論文購読演習の指導にも参加させていただきました。研究遂行や論文作成のみならず、研究費申請、学生指導、work?life balanceやキャリアパス等について現地のスタッフサイエンティストや学生さんと意見を交換する機会を多く得られ、今後の研究者としての人生の糧となりました。